ESRSがさらに簡素化:2025年改訂版のポイント
2025年7月30日、欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)は、大幅に改訂された欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)の公開草案を公表しました。これは、ESRSが2023年に採択されて以来、最も大きな更新です。
今回の改訂は、全12の業種横断的基準に適用され、EUの包括的な簡素化パッケージの一環として、企業サステナビリティ報告指令(CSRD)に基づく報告を、より実務的かつ効率的にし、国際基準との整合性を高めることを目的としています。
ESRSが改正される理由
EFRAGは、CSRDに基づく報告準備を進める企業(とくに中小企業や初回報告企業)からの、コストや実現可能性に関する懸念に応える形で改訂を開始しました。今回の更新は、関連性・比較可能性・欧州グリーンディールとの整合性を損なうことなく、欧州委員会が進める行政負担の軽減を図るものです。
この目的のため、12の横断的・主題別基準すべてに、次の6つの簡素化策が適用されました。
- 内容・構成の明確化:書式・用語・レイアウトの一貫性を高め、使いやすさを向上。
- 重要性の要件の再確認:開示はトピックが重要な場合に限ることを明示し、重要性評価を簡素化。
- 内容の再調整:要求データポイントを削減し、任意開示を全て削除。
- 要件の詳細度の削減:重複・過度に詳細な要件を統合。
- 段階的導入・適用緩和の拡充:移行措置やコスト/労力免除を拡大し、適用方法・時期の指針を明確化。
- 相互運用性の向上:ISSBのIFRS S1・S2などとの整合性を強化。
これらは、包括的で比較可能な報告というESRSの中核を保ちながら、とくに中小企業や新規報告者にとって、実用的で比例的な枠組みにすることを狙いとしています。
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基準全体における主な更新点
簡素化の規模が最大の特徴です。
- 必須データポイント:57%削減
- 任意(「可能」)開示の削除に伴う総データポイント:68%削減
- 文量(総文字数):55%超削減
10の主題別基準(E1~E5、S1~S4、G1)も更新されました。主な変更点は以下のとおりです。
- E1 気候変動:移行計画、スコープ1~3排出量、エネルギーミックス、除去に関する開示を明確化。1.5℃目標経路やSBTi手法との整合性を強化。
- E2~E5(環境):目標と開示事項を合理化・統合。EU政策の参照を更新。
- S1~S4(社会):従業員、バリューチェーン従事者、影響を受けるコミュニティ、消費者に関する構造を統一し、人権基準との整合性を強化。
- G1 企業行動:倫理、腐敗防止、ロビー活動、サプライヤー行動、内部通報に焦点を絞って合理化。重要トピックのみ報告する柔軟性を維持。
内容面の更新に加え、基準全体の明確性と一貫性を高めるため、次のような構造的な簡素化も導入されました。
- 開示目的の統合:従来は別個だった「影響・行動・リスク・財務的影響」を、統合した開示段落に整理。
- レイアウトの統一:全トピックで一貫した報告ロジックを適用。
- 概要(エグゼクティブサマリー)の任意記載:報告書の冒頭に要約を置き、詳細データは適切に付録へ移動可能。
これらにより、特に初回報告企業にとって、直感的で実施しやすい構成になります。
構造的見直し:新たなフォーマット
重複を減らし明確性を高めるため、改訂版ESRSでは、従来分かれていた「影響・行動・リスク・財務的影響」の開示目的を一つの段落に統合しました。企業はトップダウンの重要性評価に基づき、重要と判断したサブトピックのみを報告すればよく、過度に細分化されたスコア付けから脱却できます。
その他の主な変更:
- 全トピックで一貫した報告ロジックを適用
- 関連箇所に限って重要性に基づく開示を実施
- 報告書冒頭に任意で概要を配置
- 詳細データは付録に集約して本体の負担を軽減
説明責任を維持しつつ複雑性を抑え、広範なサステナビリティ報告エコシステムとの整合を図る構えです。
影響重要性評価の明確化(ESRS 1)
ESRS 1に基づく影響重要性の評価方法について、重要な明確化が提案されました。現行で課題だった「グロス対ネット」—すなわち潜在的な負の影響の深刻度・発生可能性を判断する際、既存の緩和・予防策を考慮できるか—に対応するものです。
提案:影響が生じる前に実施した緩和・予防策の結果を考慮可。ただし、それらが将来の深刻度または発生可能性を低減するという裏付けがある場合に限る。
意味合い
- 評価の一貫性向上:評価手順が明確になり、業界や企業間での一貫性が高まる。
- 積極的なリスク管理の評価:先行して対策を講じている組織は、その進捗を評価に反映可能。事前対応が不利に働かない。
この明確化により、枠組みは企業のサステナビリティ計画やリスク低減の実務に、より密接に一致します。
財務的影響の開示:新たな選択肢
ESRS 2.0におけるサステナビリティの財務的影響開示では、次の2案が示されています。
- 定量を原則必須としつつ、ISSBの実務に倣い、データが入手困難な場合は定性による代替開示を認める。
- 定性を必須とし、定量は任意とする。
最終案の選択は、CSRD準拠のために整備すべきシステムやデータ基盤に影響します。
法的制約:現時点で変更されない事項
改訂草案では、要望のすべてに対応できていません。以下の課題はCSRD自体の改正(EU議会・理事会・委員会の交渉と採択)を要するため、未解決のままです。
- 金融機関におけるバリューチェーンの定義
- 金融持株会社の連結範囲(子会社の取り扱い)
- 機密情報・センシティブ情報の免除可能性
- 1.5℃整合型移行計画の要件の明確化
企業が今すべきこと
パブリックコンサルテーションは2025年9月29日までです。次の手順で準備・対応を進めてください。
- 重要性評価の見直し
緩和・予防策に関する新ガイダンスを適用し、潜在的影響の評価を更新。 - 財務開示の準備度評価
現行システム・報告能力を点検し、自社に適した開示(定性/定量)を見極め、いずれの最終案にも対応できる体制を整備。 - ESRS構造の再点検
改訂草案とのギャップ分析を実施。削除されたデータポイント、統合された開示目的、構造変更を確認。 - 公開協議への参加
EFRAGにフィードバックを提出。主要な改訂点に関する明確化要請や懸念を表明。 - 法改正動向の継続モニタリング
将来の報告義務に影響し得るレベル1改正の進展を継続把握。
タイムラインと今後の手順
- 公開協議:2025年7月31日~9月29日
- EFRAGの最終勧告(欧州委員会宛):2025年11月末
- 改正ESRSの採択(委任法令):2025年末
- 適用開始:2026年1月1日以降に開始する事業年度(初回報告は2027年公表)
今回の改正はESRSの重要な進化です。基準の厳格性を保ちつつ、特にCSRDに基づく初回報告企業に対し、透明性と実務性のバランスを重視するEFRAGの姿勢が反映されています。
情報入手の方法
Zeveroでは、最終基準の採択後もESRSの動向を継続的に追跡し、分析をお届けします。
個別のご相談は、当社の専門家までお気軽にお問い合わせください。