いま起きている変化
企業のサステナビリティへの姿勢は、具体的な行動そのものよりも「情報発信の在り方」で大きく変化しています。ESGへの投資は増える一方で、その取り組みを語らない企業も増えています。
この現象は「グリーンハッシング」と呼ばれ、本気の取り組みと情報開示との間にある緊張の高まりを映し出しています。
- EcoVadisの2025年版『ビジネスサステナビリティ展望』では、87%の企業がESG投資を維持・増加する一方、約3分の1が意図的に発信を減少。
- フィナンシャル・タイムズの報道では、米国上位50社の71%が気候目標へのコミットメントを維持しつつ、アルファベット(Googleの親会社)を含む多くの企業が公的な場で「ESG」という言葉の使用を減らしています。
ここで問うべきは、「この静かな姿勢は成熟の表れか、それとも見過ごせないリスクか」という点です。
グリーンハッシングとは
サステナビリティへの取り組みを、意図的に過小に伝える・軽視して見せる・公表を避ける行為を指します。
影響を誇張する「グリーンウォッシング」とは逆で、実際には前進しているのに沈黙する状態です。
一見すると、見せかけの宣伝から責任ある姿勢への転換のようにも映ります。しかし多くの場合、強まる監視の中で、企業が伝え方に苦慮している兆候です。
なぜグリーンハッシングが増えるのか
可視性から後退する要因はいくつかあります。
- 政治・法的圧力
一部市場(米国など)でESGが政治化。反発や訴訟リスクを避けるため、話題そのものを回避する動き。 - 規制の高度化
EUのCSRD、米カリフォルニアのSB 253、オーストラリアの新基準など、開示の重要性が急速に上昇。
後で撤回・修正するくらいなら「何も言わない」選択に傾きがち。 - データへの自信不足(内部課題)
信頼できる最新の排出量指標や部門連携がなければ、安全に共有できる情報の範囲が分からない。
結果として、沈黙=リスク管理と捉えるチームも少なくありません。
沈黙の代償
誇張や裏付けのない主張を避ける姿勢は正しい一方、完全な沈黙は長期的な戦略になりません。沈黙は次のリスクを招きます。
- 信頼の失墜:透明性がなければ、進捗は「ないもの」と見なされがち。
- 勢いの停滞:努力が認められないと、現場のモチベーションが下がる。
- 機会の逸失:ESG実績は投資家・取引先・買い手に評価される要素。語らなければ価値が埋もれる。
- 集合的学習の損失:成功と失敗の共有が減り、業界全体のイノベーションが鈍化。
毎回プレスリリースが必要という意味ではありません。一貫性のある、信頼できるコミュニケーションが、今まで以上に重要になっています。
いずれ、開示は任意ではなくなります。規制は明確で監査可能なデータを求め、透明性を事実上の義務にしつつあります。いま習慣化できなければ、義務化後に対応で苦労する可能性が高まります。
「思慮深い透明性」の進め方
取り組みが進行中の段階では、伝え方が難しく感じられます。過剰な約束と不十分な情報提供の間には細い境界線があります。
目指すべきは、次のようなコミュニケーションです。
- 実データに基づく:不完全でも、数値・背景・限界を明示して共有する。
- 平易な表現:専門用語を避け、社内外の誰にでも伝わる言葉にする。
- 課題への誠実さ:完璧はない。難所を認める姿勢が信頼を高める。
- 進捗重視:目標だけでなく、実行した施策・課題・次の計画を示す。
- 一貫性:派手な単発発表より、控えめでも継続的な共有を。
- 部門横断:社内の実態と外部発信が一致するように連携する。
結論:完璧を待つ必要はありません。 現状と次の一歩を、ありのままに伝えましょう。
サステナビリティ担当者への示唆
グリーンハッシングの台頭は、企業が気候対策をやめたことを意味しません。むしろ、アプローチや伝え方が変化しているということです。多くの組織が、曖昧な約束から測定可能な成果へと焦点を移しています。
ただし、発信が止まれば、進捗は見えなくなり、価値も伝わりません。
求められるのは、データに根ざし、戦略に導かれ、明確に伝える物語を形作ることです。
最終的な考察
規制当局は体系的で監査可能な開示を求め、顧客はより鋭い質問を投げ、投資家は野心だけでなく証拠を重視しています。
この環境下で、グリーンハッシングは一見安全策に見えても、沈黙からは信頼は生まれません。
気候対策は、完璧なデータやリスクゼロの条件を待っては進みません。重要なのは、実際の行動と伝える内容の整合性です。
問うべきは「語るべきか」ではなく、「いかに効果的に語るか」です。
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