オーストラリア下院は、大企業・中堅企業に対する気候関連開示を義務づける画期的な法案を可決しました。これにより、バリューチェーン全体における企業の気候リスク・機会および温室効果ガス排出量に関する透明性が高まる見込みです。最大手企業には2025年から適用が開始されます。同法は8月に上院で承認され、気候報告を法的義務とするための最終段階へ進みました。では、企業には何が求められるのでしょうか。
オーストラリアの新たな気候変動報告要件
報告義務は段階的に導入され、準備期間が設けられます。最初の対象は2025年1月開始で、以下のいずれかを満たす大規模企業です（例：従業員500人以上、売上高5億豪ドル超、資産10億豪ドル超）。
求められる主な開示は次のとおりです。
- 気候関連リスクと機会
物理的リスク（極端気象など）と移行リスク（規制変更や技術転換に伴うリスク）の双方に加え、脱炭素経済での成長機会も開示。 - 温室効果ガス排出量
スコープ1（自社直接）・スコープ2（購入電力等）を報告。スコープ3（サプライチェーン由来の間接）は2026年から段階的に義務化。
中規模企業は2026年7月までに報告を開始し、小規模企業（従業員100人以上または同等の規模）はその1年後に開始します。
なぜスコープ3が重要か
スコープ3は、サプライヤーから最終使用までバリューチェーン全体にわたる間接排出を含み、多くの企業で排出の最大部分を占めます。測定が難しい場合があるため、政府はスコープ3の開始時期を1年猶予し、さらに3年間のセーフハーバー（不正確さに対する訴訟保護）を設け、移行の負担を軽減します。
ネットゼロ経済庁の設立：移行を支える仕組み
新要件と並行して、政府はネットゼロ経済庁を設立しました。主な役割は以下のとおりです。
- 労働者の再教育：排出の多い分野を中心に、成長する脱炭素経済で必要な技能の習得を支援。
- 企業・投資家との連携：ネットゼロ移行で生まれる機会の活用を後押し。
- 地域支援：伝統産業に依存する地域の円滑な移行を促し、クリーンエネルギー投資と持続可能な雇用を創出。
同庁は、2030年に排出量43％削減、2050年ネットゼロという国家目標の達成に向け、中核的な役割を担います。
企業への影響
- 透明性の向上：気候リスク・影響・機会の詳細な開示が求められ、投資家の可視性が高まり、リスク評価やエンゲージメントに活用されます。
- コンプライアンス体制への投資：排出データの収集・管理・報告のためのシステム整備が必要に。とくにスコープ3では、データ精度向上に向けた新技術の導入や外部専門家との連携が重要になります。
- リーダーシップの機会：積極的な削減と透明な開示により、投資家・顧客・各種ステークホルダーからの評価が高まり、先進企業としての地位確立につながります。
今後の見通しと準備事項
オーストラリア会計基準審議会（AASB）がまもなく気候開示基準を確定する見込みであり、企業は2025年の施行に向け、今から準備を進める必要があります。
- 現在の排出データの棚卸し
- 重要な気候リスクの特定
- 収集・追跡・報告のためのシステム構築
これらは早期対応の要諦です。新規則は負担にも映りますが、同時に持続可能性への取り組みを示す好機でもあります。変化を先取りできれば、気候対応が競争力の源泉となる環境下で優位に立てます。
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