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ESGインサイト

スポーツ業界におけるサステナビリティ

スポーツにおけるサステナビリティは、単なる排出量削減にとどまらず、スポーツの未来を守るためにも欠かせない要素となっています。 本記事では、各クラブがどのようにサステナビリティへの取り組みを強化しているのか、そしてその具体的なアクションについてご紹介します。

Jasmine Saini
Jasmine Saini
Carbon Consultant
スポーツ業界におけるサステナビリティ

はじめに

スポーツは、数十億人の人々に影響を与える強力なプラットフォームです。スタジアムからリビングルームまで、その広がりと影響力は他に類を見ません。しかし、その力には、相応の責任も伴います。

気候危機はすでにスポーツにも影響を及ぼしており、トレーニングスケジュールの変更、競技場の浸水、移動のリスク増加などが現実となっています。一方で、スポーツ業界は自らの環境負荷を削減し、より広範な変化を促すユニークな立場にあります。今こそ、未来を形作る行動が求められています。

スポーツにおけるサステナビリティが重要な理由

スポーツが環境に与える影響は多岐にわたります。クラブやリーグは、移動、スタジアム建設、飲食、マーチャンダイズ、放送などを通じて、温室効果ガスの排出に寄与しています。

同時に、スポーツは気候変動の影響を受けやすい分野でもあります。異常気象は競技のスケジュールを混乱させ、施設インフラに大きな負担をかけています。草の根レベルからプロスポーツまで、そのリスクは広がりつつあります。

しかし、希望の側面もあります。スポーツは人々をつなげ、価値観を形成し、行動変容を促す力を持っています。クラブが気候変動対策に積極的に取り組めば、ファンや地域社会もそれに共感し、行動を起こすきっかけとなります。持続可能なスポーツへの移行は、単なるトレンドではなく、社会にポジティブな影響を与える「模範」となるチャンスなのです。

行動の必要性を示す統計

  • 世界のサッカー業界は、年間で3,000万トン以上のCO₂を排出しており、これはデンマークの年間排出量に相当します。
  • イベント関連の排出量の多くは、ファンの移動によって発生しています。たとえば、2024年のUEFAユーロでは、361,912トンのCO₂eのうち約80%がファンの移動によるものと試算されています。

スポーツ分野における課題

スポーツ業界における脱炭素化は決して容易ではなく、多くのクラブが以下のような課題に直面しています。

  • 多様な事業が複雑に絡み合っている
    スポーツクラブは、試合の遠征に伴う物流、選手やスタッフへの食事提供を担うケータリング、エンターテインメントとしてのイベント運営など、複数の事業を一体で運営しています。こうした多岐にわたる事業全体を横断的に測定し、排出量を把握することは非常に複雑です。
  • 老朽化した施設インフラ
    古いスタジアムやトレーニング施設では、エネルギー効率の高い設備が導入されていないケースが多く、改修には多額の投資が必要となります。
  • データの欠如
    商品販売(merchandise)やファンの移動、外部サプライヤーに関する排出量について、十分な追跡体制が整備されていない場合、信頼性の高い排出量算定が困難です。
  • 限られたリソース
    特に規模の小さいクラブでは、サステナビリティ専任の人材や予算が不足しており、持続可能性に関する本格的な取り組みが進みにくい現状があります。
  • パフォーマンス優先の風土
    試合での成績や結果が最優先されるため、長期的な視点でのサステナビリティ戦略が後回しになる傾向があります。

これらの課題が存在する一方で、求められる方向性は明確です。スポンサー、規制当局、ファンはいずれも、クラブに対して気候変動への具体的かつ透明な対応を求めています。今すぐ行動を起こすことで、クラブは規制対応に先手を打ち、ブランド価値を高め、サポーターからの継続的な支持を獲得することが可能になります。

国連「スポーツ気候行動枠組み」

国連気候変動枠組条約(UNFCCC)が策定した「スポーツ気候行動枠組み」は、気候変動対策に真摯に取り組むスポーツ組織に向けた国際的な指針です。

署名団体は、以下の5つの基本原則にコミットすることが求められます:

  1. 環境責任の向上を促進する
  2. 気候変動の影響を軽減する
  3. 気候変動対策のための教育を推進する
  4. 持続可能な消費を促進する
  5. 気候変動対策におけるリーダーシップを発揮する

この枠組みは、IOC(国際オリンピック委員会)やFIFAをはじめとする主要な団体・大会で採用されており、各クラブを国連の目標や国際的なサステナビリティ基準と連携させる役割を果たしています。スポーツ業界が環境負荷の低減と同時に社会的責任を果たしていくための、世界的に認められた行動指針といえるでしょう。

スポーツクラブがサステナビリティのリーダーとなる方法

スポーツクラブは、持続可能性の取り組みにおいてリーダーシップを発揮できる独自の強みを持っています。試合の開催数や場所、参加人数などがあらかじめ把握できるため、シーズンの早い段階から測定・予測・削減の計画を立てることが可能です。

鍵となるのは、クラブ内の各部門がそれぞれの特徴に合わせたアプローチで取り組みながら、全体として連携することです。以下に、実践的なステップをご紹介します。

1. 1年目はカーボンフットプリントの測定から始める

すべての取り組みは「測定」から始まります。まずはScope 1〜3にわたる排出量を定量的に把握することが第一歩です。これにより、排出量の大きい領域(例:ファンの移動、ユニフォーム製造、施設のエネルギー使用、イベント運営など)が明確になり、次のアクションが定めやすくなります。

2. グリーン委員会の設置

クラブ内のさまざまな部門を横断するチームを立ち上げ、サステナビリティを推進する責任を担わせます。部門間の連携を強化し、意思決定が全体のビジョンに沿ったものとなるようにします。

3. データ収集の責任を明確化

各部門にデータ収集の責任を割り当てましょう。たとえば:

  • 施設チーム:ユーティリティ使用量の請求書
  • ロジスティクスチーム:移動・輸送記録
  • ケータリングチーム:食材の調達履歴

こうした分担により、作業の効率化と関係者の責任感の醸成が期待できます。

4. 明確な目標とKPIの設定

データを収集した後は、各部門が理解しやすく、かつ達成可能な目標を設定します。具体例としては:

  • ケータリング:試合日のメニューで肉の使用量を削減する、もしくは再利用可能なパッケージへ移行する
  • 運営:再生可能エネルギーへの転換を推進する。例:マンチェスター・シティでは11,000枚の太陽光パネルを導入。アヤックスは4,200枚のパネルをスタジアムに設置し、2030年までに「ネット・ポジティブ」なエネルギー目標を掲げています。
  • 移動:親善試合における長距離フライトを見直し、地域試合では環境負荷の少ない移動手段を選択。移動関連の排出量を年間で○%削減するなどの目標を設ける

5. 行動と定期的な報告

取り組みを始めたら、定期的に進捗を可視化し、成果を共有しながら必要に応じて調整を行うサイクルを構築します。サステナビリティは一過性の施策ではなく、継続的な学びと改善が求められるプロセスです。

収集したデータや学びは、クラブ全体のインパクトレポートにまとめることで、社内戦略や社外コミュニケーションに活用できます。特に、取り組み開始から1年後にレポートを発表することは、ステークホルダーに向けた誠実な進捗報告として非常に効果的です。

6. ファンを巻き込む

ファンはクラブに対して強い愛着と信頼を持っています。この関係性は、気候変動に関する意識啓発において他にはない影響力を発揮します。

好例として、英国の「Planet League」が挙げられます。この取り組みでは、ファンが公共交通機関の利用や植物性食品の摂取といった持続可能な行動を実践することでポイントを獲得し、クラブが「サステナビリティ・リーグ」の上位を競います。こうした仕組みは、エンゲージメント、教育、行動変容を促進し、スポーツを通じた気候変動対策の好循環を生み出しています。

スポーツ組織のための次のステップ

プロクラブ、草の根チーム、リーグ団体など、組織の規模や形態を問わず、持続可能性への第一歩は行動から始まります。ここでは、その旅を始めるための基本的なステップをご紹介します。

1. 影響を測定する
まずはデータの把握から始めましょう。排出量を可視化し、特に排出の多いホットスポットを特定。同業他社との比較も可能になります。

2. 明確な目標を設定する
国連の「スポーツ気候行動枠組(UN Sports for Climate Action)」などの国際的なガイドラインと整合性を図り、実現可能な中長期の目標を設定します。

3. パートナーと連携する
測定、報告、戦略策定を支援してくれる信頼できるパートナーを見つけることで、取り組みを加速できます。

4. 模範を示す
ファンやスポンサーに対し、信頼性が高く、測定可能な気候変動対策を実行していることを積極的に発信しましょう。影響力のあるクラブが行動を起こすことで、社会全体に大きな変化をもたらすことができます。

Zeveroは、スポーツ組織が持続可能性に関する取り組みを進めるうえでの行動プロセスをシンプルにし、カーボンフットプリントの測定から成果の発信までを一貫してサポートします。
意図を、具体的なインパクトへ。

ぜひお気軽にお問い合わせください。

Zeveroがどのように報告作業を効率化できるか、ご紹介します。

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