業界ニュース
2026年7月24日、参議院本会議で改正建築物省エネ法が可決・成立しました。大規模オフィスに対し、CO2排出量や削減計画の届け出を義務付ける内容です。今回新設される仕組みは「ライフサイクルカーボン評価制度」と呼ばれ、法律名自体も「建築物のエネルギー消費性能の向上及び脱炭素化の促進に関する法律」に改められます。2028年度中の導入を目指すとされており、対象となる企業は今から準備を始める必要があります。
背景:脱炭素化ロードマップとの関係
今回の改正は唐突な規制強化ではなく、国が示してきた建築物の脱炭素化ロードマップの延長線上に位置づけられます。国内のCO2排出量のうち、建築物の使用段階(空調・照明などの運用時消費電力)が約3割、資材製造・施工・解体段階が約1割を占めるとされ、これまでの省エネ政策は主に使用段階に焦点を当ててきました。2025年4月には新築建物の省エネ基準適合が全面義務化されています。
国はこの先、2030年に新築建物をZEH・ZEB水準(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス/ビル)に、2050年にはストック平均でZEH・ZEB水準を達成し、建築分野のカーボンニュートラルを実現する目標を掲げています。今回のライフサイクルカーボン評価制度は、使用段階の省エネだけでは届かない資材製造から解体までのCO2排出を可視化することで、このロードマップの達成を後押しする位置づけです。企業にとっては、目先の届出対応だけでなく、2030年・2050年という中長期の脱炭素目標を見据えて算定・削減体制を整えていくことが求められます。
何が義務化されるのか
今回の改正の柱は、オフィスビルなど大規模建築物を対象に、資材製造、施工、使用、解体までの各段階で生じるCO2の総量の算定を建築主に義務付ける点です。建築主は国が策定する指針に基づいて算定し、新築や増改築の着工の14日前までに、算定結果を国土交通大臣に届け出ます。国は、排出量削減の取り組みが著しく不十分と判断した場合、是正を勧告する仕組みも設けられます。
努力義務の対象は建築主だけではありません。建築士、建設業者、建築材料等製造等事業者もそれぞれの立場でライフサイクルカーボン評価に協力する努力義務を負う位置づけとなっており、設計を受託した建築士は建築主への説明などの協力を行うことが定められています。
この「建物の生涯を通じた環境負荷」を検証する考え方は、ライフサイクルアセスメント(LCA)と呼ばれます。鉄、コンクリート、木材といった資材ごとの排出量を定め、建設から解体までの全過程でのCO2排出量を算出する手法です。単に運用時の消費電力だけでなく、建材の製造や施工、将来の解体までを含めて評価する点が特徴です。制度は国際基準に整合させ、サプライチェーン全体のCO2排出を計算するScope 3に準拠したものとなる方針です。
実務上、このLCA算定は資材ごとの炭素排出量原単位を積み上げて行うため、その原単位の根拠となるEPD(環境製品宣言)が算定の土台になります。国交省の資料でも、国の定めるルールに従って算定した炭素排出量原単位を建築材料等に表示できる仕組みが位置づけられており、建材メーカー側のEPD整備が進むほど、建築主側のLCA算定も正確かつ効率的に行えるようになります。逆に、対象資材のEPDが整っていない場合は、デフォルト値や代替データに頼ることになり、算定結果の精度や説明力が下がる点にも注意が必要です。
対象となるビルの規模や種類は、今後政令で定められます。国土交通省は延べ床面積5,000平方メートル以上の事務所とする方針を示していますが、審議会の検討段階では2,000平方メートル以上のオフィス・商業ビルまで対象を広げる案も出ており、制度開始後は運用を踏まえて対象の見直し・拡大が検討される予定です。
対象規模に達しない建物も無関係ではない
義務化の対象は延べ床面積5,000平方メートル以上のオフィスが軸になる見通しですが、それ以外の建物についても無関係ではありません。延べ床面積にかかわらず、すべての建物についてCO2排出量や削減計画の評価が建築主の努力義務となります。また、設計を受託した建築士には、評価に必要な事項を建築主に説明する義務が課されます。
つまり、義務化のラインに達しない中小規模の建物であっても、建築士から評価やLCAに関する説明を受ける場面が増えていくということです。加えて、対象となる建物の規模自体も、制度開始後5年以内に見直される見通しです。審議会の検討段階では2,000平方メートル以上まで対象を広げる案も出ていたため、当初は義務化の対象外だった企業も、将来的に対象へ含まれる可能性を織り込んでおく必要があります。
第三者認証・表示制度も新設される
今回の法案には、もう一つ見逃せない仕組みがあります。建築主等は、建築物のライフサイクルカーボン評価結果や省エネ性能について、登録機関による第三者認証を受けたうえで、標章(マーク)を表示できるようになります。同時に、紛らわしい表示は禁止されます。
これは、企業が自社物件の環境性能を対外的にアピールする際の裏付けになる仕組みであると同時に、根拠のない、または誇張された環境訴求を防ぐグリーンウォッシング対策としての性格も持っています。第三者機関の認証を伴わない自己流の「省エネ物件」「脱炭素ビル」といった表示は、今後ますますリスクの高いコミュニケーションになっていくと考えられます。ESG関連の開示やマーケティングで自社物件の環境性能を訴求する企業にとっては、届出義務そのものへの対応だけでなく、この第三者認証・表示制度の活用も検討テーマになります。
企業にとっての意味
この改正は、不動産・建設・製造業をはじめ、自社オフィスやサプライチェーン上の建物を保有・利用するすべての企業にとって関わりのある変化です。特に次の3点で、対応の準備が必要になります。
- LCAに基づくGHG算定の実務化:資材調達から解体までのCO2排出量算定が、任意の取り組みから制度対応の一部になっていきます。国際基準・Scope 3に準拠した算定が前提となるため、サプライチェーン全体を対象にした算定体制が問われます。算定の精度は、参照するEPD(環境製品宣言)の整備状況に直結するため、自社が使う建材・資材のEPD確認・取得も合わせて検討する必要があります。
- 着工14日前の届出への対応:算定と届出は新築・増改築の着工14日前までに必要になります。設計段階でLCAデータが揃っていなければ、着工スケジュールそのものに影響しかねません。
- 削減計画の策定と可視化:届け出には削減計画が含まれるため、現状把握だけでなく、目標設定とロードマップの提示が必要になります。国が削減の取り組みを「著しく不十分」と判断すれば是正勧告の対象になるため、実効性のある計画が求められます。
- 説明責任の広がり:建築士による説明義務の新設により、発注者側の企業もLCA・EPD(環境製品宣言)の知識を持って対話する場面が増えます。
- 環境訴求の裏付けとリスク管理:第三者認証・表示制度により、根拠に基づく環境性能のアピールがしやすくなる一方、認証を伴わない誇張表示は紛らわしい表示として問題視されるリスクが高まります。自社物件の環境性能を対外的に発信している企業ほど、事前の確認が必要です。
この記事の情報について
本記事は、成立を報じた新聞各社の記事に加え、国土交通省が法案の閣議決定時(2026年3月27日)に公表した報道発表資料を基にまとめています。制度の骨格(ライフサイクルカーボン評価制度の創設、着工14日前の届出義務、対象規模は政令で規定など)はこの資料に基づく確度の高い情報ですが、あくまで閣議決定時点の内容であり、国会審議を経て7月24日に成立した最終条文と細部が異なる可能性があります。
完全な確認には、成立後に公布される官報、または国土交通省が改めて公表する「成立版」の資料を確認するのが最も確実です。 政令で定められる対象規模・用途、削減指針の具体的な内容についても、今後の政令・省令の公表を待つ必要があります。
Zeveroができること
Zeveroは、GHG算定からLCA・EPD対応、ESGレポーティングまでを一つのプラットフォームで支援しています。今回のような制度変更に対しては、以下のようなご相談を多くいただいています。
- 国への届出に対応した建物単位のLCA算定
- 日本対応建材EPD(環境製品宣言)の取得支援
- 建材・資材単位でのLCAデータ整備とCO2排出量算定
- Scope 1〜3を含めた自社・サプライチェーン全体のGHG算定体制の構築
- 削減計画の策定に向けたシナリオ分析とロードマップ作成
- 国への届け出や開示に耐えうる、信頼性のあるデータ基盤の整備
制度対応は、義務化される前から準備を始めた企業ほど、スムーズに移行できます。改正建築物省エネ法への対応について、算定体制の現状確認から具体的にご相談したい方は、お気軽にお問い合わせください。
出典:日本経済新聞(7月24日記事)、国土交通省 報道発表資料、国土交通省 法案概要資料
参考:国土交通省「建築物省エネ法」法令一覧
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